ニューズレター刊行によせて

 私は現在、「私の統合失調症を語ろう」という作品を手がけています。これは、北海道浦河町にある「浦河べてるの家」のメンバー5人に、精神科の医師が彼らのこれまでの歩んできた人生と病気について、ネホリハホリ聞く、という企画です。つまり、ビデオインタビュー集です。
 どうしてこのビデオを企画したかというと、今年4月に第8回統合失調症学会が浦河町で開催され、その事務局を「浦河べてるの家」が担当しました。私たちもこれまでいろいろな作品を作ってきましたが、考えてみると、統合失調症を持つ人たちのこれまでとこれからについて直接話を聞く、というようなことはやってきませんでした。
 統合失調症はとても診断するのが難しい病気なのだそうで、それこそ長い経験に裏付けられた的確な診断技術が必要です。つまり、医師としてよい診断を下していただき、また、介護や精神療法を的確にやっていただくために、少しでも多く患者さんの暮らしや経験、病気になった実感などに触れていただきたいと思ったわけです。
 べてるなら、自らを語るということを活動のひとつにしているわけだし、この際色んな話が聞けるのではないかと思い、統合失調症学会を開催する記念に、当事者自らが自分の病気を語るというビデオを作ることにしました。
 3月に撮影を行い、4月の学会の時に監修の先生(大会長である齋藤利和・札幌医大教授)に見ていただき、5月に発売、ともくろんでいたのですが、まあいろいろあって、発売は6月下旬になりそうです。
 で、4月19日、20日の二日間、統合失調症学会参加のために、浦河にいってきました。私も、たくさんの学会に出て、いろいろな分科会や講演に参加してきましたが、この大会ほど難しい内容のものは今まで経験しませんでした。というより、私がこれまで見てきた、いわゆる心理社会的療法の世界とは全く違っていたのです。生物科学的療法が中心で、まさに検査と薬物のデータの洪水です。全く解りません。私たちの言語能力をはるかに超えた世界が展開していました。
 それでも今回は大会長の方針で、心理社会的療法の要素が大変に増えたそうなのです。そのおかげだと思いますが、いくつかの講演はなんとかついていけ、皆さんとの交流も楽しいものでした。大変よい勉強をしたという気持ちです。
 精神医療の世界は本当に深く、かつ幅の広いものです。不用意にも飛び込んだ私ですが、これから先の長さと深さを思うと少々心細くなります。
 まあ、なんとかやっていきますので、よろしくお願いいたします。

中島映像教材出版 代表取締役
中島太一

発達障害のある当事者からのこれからについてのメッセージ

出演=冠地 情(かんち じょう)
東京都成人発達障害当事者会・イイトコサガシ 代表。
ADHD、アスペルガー症候群と診断され、コミュニケーションが一方的になりやすいという特徴が自分にはあるとおっしゃっています。この動画は2013年1月6日[日]に行なわれた講演会での冠地さんの発表を収録しています。大人になってわかった当事者の大変さ、また当事者としての生きにくさをどう発信していくかというお話です。ご覧ください。

いま、街で生きるということ|第3回 工藤一恵

精神の病を持って街で生きる、ということの大切さ、しんどさが身にしみて感じられる日々です。その大切さやしんどさを現場からの視線で伝えていただきます。 第3回は、工藤一恵さんです。

くどうかずえ―岩手県在住。平成25年3月まで岩手県保健師。東日本大震災では被災地支援で活躍。現在、日本福祉大学大学院にて通信教育で学ぶ学生。SST普及協会運営委員。

 平成25年3月まで、岩手県の職員として四半世紀ほど勤務し、そのうち沿岸部の久慈、釜石、大船渡の保健所で10年間勤務しました。医療・保健・福祉関係者のみならず、本屋さん、電気屋さんと、知り合いも増え、思い出がたくさんある街ばかりです。
 東日本大震災津波では、多くの知人が亡くなりました。そして、見慣れた建物や風景が一瞬で奪われてしまい、2年を経過した今でも荒地のままです。海岸部を車で走るたびに、「これは夢で、別の街ではないか」と思いがよぎることが今でも少なくありません。
 被災された方々は「いつになったら、『普通の生活』ができるのか、気が遠くなる」と共通して語ります。彼らが言う「普通の生活」とは、「流された家や街並みはどうしようもないけれども、これからの生活に希望が抱けること」を指します。
 具体例をあげると、「『元気ですか、悩みはありませんか、眠れていますか』といろいろな人たちが来るので、かえってイライラする。普通の生活であれば、見知らぬ方が突然、訪問し、自分の気持ちに踏み込んでくることはない」と語っておられました。
 いわゆる「被災者=自殺の恐れが強い者」と捉えられ、「心のケア」の名の下にお節介的な支援が増えている現状が少なくはありません。相談支援の基本は、「相手に寄り添うこと」なのですが、被災者の方々の本当の気持ちに気づいているかどうか、疑問符がつきます。
 その反面、ある調査では、特に岩手県の内陸部では、「震災は風化している」「自分には関係ない」と感じている方々の割合が多くなってきているとの調査報告があります。
 正直なところ、沿岸部から30分も車を走らせると、震災前と同じような生活や時間が流れています。また、岩手県は内陸部と沿岸部では言葉や風習も異なることから、内陸部在住の県民にとっては、現実感がなく、他人事であるとの印象も強いのです。
 このような状況を考えると、「住み慣れた街で『普通の生活』を営むこと」が、非常に贅沢なことであり、また、私たちが忘れてはいけないことではないでしょうか。
 平成25年4月からのNHKの朝の連続ドラマは三陸海岸が舞台です。番組後半では東日本大震災も起こる設定と聞いています。ある意味で、「風化させない」ということにもつながり、また、被災者の方々の気持ちを代弁する機会にもなることを期待しています。
 これから、自分も含めて、「気持ちに寄り添いつつ、震災を風化させない」ことを基本に今後も関わっていきたいと思っています。